「なにしてるの?」
「べつに」
きっと俺たちは両想いなんだろうし、お互いに心を許しているし、普通だったら付き合ってるような関係なんだと思う。でも俺はアイドルになる夢があって、彼女は作曲家という夢があって、俺たちはパートナーで。この学園は恋愛禁止で、恋をすることは許されない。だから、俺は想いを告げていない。もう既に彼女に想いを寄せている地点でだめかもしれない。彼女は恋人ではない。けど、好き。そして彼女も、たぶん、俺が好き。…だといいな。
「できた」
「赤い糸?」
「運命の赤い糸」
「わたし?」
「さーな」
言いながら俺の小指と彼女の小指を赤い毛糸で結んだ。くるくると紐を指にかける彼女はかわいかった。うん、べつに、これくらい、いいだろう。俺の糸と彼女の糸が本当に繋がっていたらいいのに。
「嬉しい」
「ただ結んだだけだぞ」
「わかってるよ」
嬉しいと言われて俺も嬉しかった。特別な意味は無いとお互いに言い聞かせると、彼女は指を見てくすくすと笑う。
「翔結び方下手くそ」
「ああ!?うるせーよ!」
「…堅結びしちゃったら、取れないじゃない」
小さな声で呟いた彼女の表情はどこか切なげで。本当は、好きだって、お前を一番愛してるって。そう言って抱きしめて、キスをして。学校の廊下を手を繋いで歩いたり、デートをしに行ったり、したいことなんて山ほどある。実際は彼女に触れることすら出来なくて、なんてもどかしいんだろうか。こんなに近くに居るのに、何も出来なくて。俺はしょぼんとする彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ばーか」
「!?」
「いつか絶対、お前を迎えに行くから、左の薬指は開けとけよ?」
「……わかってるよ」
「つーか、お前は家来なんだから、ずっと俺様から離れんなよな!」
「…ん…」
ぎゅっと締め付けられる心臓が、彼女の潤んだ瞳が、恋愛禁止という言葉が、アイドルになるという夢が、言葉に出来ない愛が。全部が俺の頭の中でぐるぐると回る。馬鹿、と笑っていた彼女の瞳からは次第に涙がぽろぽろとこぼれて、彼女は両手で顔を覆ってしまった。なに泣いてんだよ、そう言った自分の声が震えていて情けなくて、息を飲んだ。どうして俺たちは愛し合えないのかなんて思わない。これは俺たちが選んだ道だから。迷いはしないし、弱音なんか吐いたりしない。震える彼女の頭にまた手を置いて、くしゃりと撫でた。俺は、これは恋ではないと下唇を噛み締める。俺は数年後、彼女に恋をする。それまではまだ、赤い糸の先は見てみぬフリをしていよう、と。
それは恋の真似事
◎120105
翔ちゃん達がちゃんと恋愛禁止を律儀に守ってたら、という話。
同工異曲さまに提出
ありがとうございました!
Lira : 柑花